第66話:青の下・緑の上
no image

ごうごうと吠えていた。
あの風の音は。
いつの間にか去っていて。
代わりに小さな。無数の音。
細波のように私を包んでいる。
さやさや。さやさやと。
擦れ合う葉と葉。微風に戯れる。その音。
しんと透き通った空気。
とても純粋で、希薄な気体。
ひやりとした冷気が、私の肌を焼いている。
青い。
染みひとつない宝石のような空。
恐ろしいほど高く。
絶望的に広い。
その只中に、白く輝く。
巨大な星。
冷たく燃えている。
それを映している。
乾いた瞳。
…私は自分の目蓋が開いていることに気がつきました。


いつからこうしていたのでしょうか?
ぼんやりとする頭を振って。私は辺りを見渡しました。

じゃり。

靴底が、かすれた声で哭きました。
硬く、粗い。確かな感触。
私は石垣の上にいました。
真っ白な、ごつごつとした石を無造作に積み重ねた。
簡素な垣。
上面の横幅は50センチ、高さは1メートルに満たないそれを。垣と呼んでよいのなら、ですが。
私は視線を足元から先へ送りました。
垣は少し先で、垂直方向へ伸びる別の垣と交差して、十字を描いています。
その先でも十字に。またその先でも十字に…。
そこで、ようやくわかりました。
私が立っている、この石垣が。
格子状に広がっていること。
地平線の彼方まで、ずうっと。ずうっと広がっていること。
四方に視線を飛ばしましたが、どの方角も同じ光景です。
私以外に誰もいません。
頭がくらくらしました。
もう一度足元に目を戻して。
私は先程から聴こえていた「さやさや」と鳴る音の正体を知りました。
石垣で囲まれた、四角い平地。そこで。
一面に生い茂る、背の高い芝生。
微かな風を受け、小さな声で囁いています。
まるで、小さな庭のよう。
私は体をひねって。
反対側も覗き込んでみました。
そこも似たような光景でした。
平地に群生する、深い緑色の下草。
きっと、他の場所も皆同じなのでしょう。

その時です。
私の瞳はそれを見出しました。
芝生の間に、白いもの。
無数の小石。
それらは寄り集まり、重なり合って、掌大の山を形作っています。
よく確認しようと身を乗り出した瞬間。

「あ」

空気が抜けるような、私の声。
足をすべらせて。
私は芝生の中へ転げ落ちていました。




BACK NEXT
目次