第65話:闇の中へ




「あなたは…」
そう呟いたきり、私の喉から声が消えました。
ぎしぎしと、胸の辺りを締め上げる不安。
とてつもない後悔。
知ってはいけないことを知ってしまったような。
巨大な秘密に対する本能的危機感。
これをそう呼んでいいならば。
畏怖。
「心は脆いものだ」
私と同じ声で。
ガルガンチュアが言いました。
「脆弱で、繊細で、危うげなものだ。
 だが、事実の否定は許さん。
 今、ここに在る事実。
 私とお前。
 この存在を否定させはしない」
近づいてくる闇の王。
その髪が風を受けて揺れました。
毛先から、緑色の燐光が零れます。
私の目の前で、ガルガンチュアの歩みは止まりました。
似ている…。
本当に。私とそっくりの顔。
『家族』と。
ガルガンチュアは、そう言ったのではなかったでしょうか。
「気が変わった。
 この街にいる者、全てを私の記憶の中へ連れてゆくとしよう。
 その場所で、お前の過去も見出すことができるだろう」
私と同じ形の唇から、落ち着いた声が放たれました。
「だが、忠告しておく。
 正面から私の思考に潜り込もうなどとは思わないことだ。
 精神を破壊されたくなければな。
 私の思考は堅固な防壁で守られている。
 何者もそれを越えることはできない。
 …だから、お前達のために別の方法を用意しよう」
その方法というのは、何なのか。
私がそれを尋ねる前に。


 爆発。


網膜を破壊する。緑光の炸裂。
同時に、体がバラバラになりそうな衝撃。
津波のように押し寄せる、圧倒的な力。
私は反射的に目を閉じ、踏ん張ろうとしました。
けれど、地面が。足の下にない…。
私、吹き飛ばされてます。
…何処へ?
   後ろなのか。前なのか。
                 上なのか。下なのか。
      自分がどこを向いているのかもわからないまま。
  彼方へ吹き飛んでゆきます。
ごうごうと、耳元で唸りを上げる音。
風のような。そこに混じって。
「初めに見えた方向へ進め」
遠くから、ガルガンチュアの声が聴こえます。
「17番目の入り口だ。忘れるな…」
がとん、がとん、がとん。
耳元を列車が走り抜けるような音がして。
声を追いやってしまいました。
風の音はますます激しくなっています。
その中に、鳥の囀る音。
金属と金属のぶつかる音。
地鳴りのような音。
恐ろしさのあまり、私は目を開けようとしました。
見えたのは緑色の光。
そして。
彼方から、もの凄い速さで近づいてくる真っ暗な闇。
声を上げる間もなく。


全ては闇に包まれました。


楽曲:Peter in Nightmare
sound avenue


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