第60話:悪鬼咆哮
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るぅ〜〜〜〜るる〜〜〜〜ぅぅぅぅ〜〜〜るるるるるるるるるる…

綺麗な音。
連続。残響。
素敵。

がきん。

アタマの中で。
崩落する歯車。新たに作り出される、硬く、精密な部品。
がちり、がちりと。噛み合う。
組み換え。再構成。
また、変わる。
私。
『クラン』という名の。存在。
変化は続く…。

ごそり、と。
こそげ落ちる感触。
ひび割れ、歪んだ視界が。
剥離して。
正常な視野が戻ってきました。
急激な回復に。軽い眩暈。
状況…。
状況を。整理しないと。
私の中に在ったガルガンチュア。
その存在によって与えられた、変化。
こんな時でも。内外の情報を。集めて。
整理…分析できる冷静さ。
まずは、心音。
やや早いけれど…正常です。
呼吸、発汗…共に正常。
体は…。座り込んでいます。
外傷、なし。頭部にも異常はありません。
視界に映っているのは…?
石畳…。地面。

私は顔を上げました。

飛び込んでくる。様々な映像。
同時に蘇る、全ての音。
叫ぶ、大勢の人。街の人達。
トメロ、コロスナ、と。口々に叫んで。
その視線の先に。
何か。大きなもの。
二本の脚を大地に突き立てて。
上体を呼吸で弾ませて。
滑らかな、深い藍色の体表が。陽光を吸い取って。
彼は。彼の名前は。

『悪魔』アプレアギーレン。
 
巨大な掌を握り締めて。
彼は右手を天に突き上げていました。
鷲づかみにされた、小さな肉体。
だらりと垂れ下がり、動かない…二本の白い棒。
『彼女』の脚。
力を失って。
掌の圧搾にも、もう反応が…ない。
「よせ」
モレクラールの掠れた声が、巨大な背を叩きました。
「まだ殺すな。…そいつには訊くことがある。
 …何故俺達の記憶を奪ったのか。
 …記憶を取り戻す方法はあるのか。
 だから。まだ…」
声は。半ばで消えました。
落ち窪んだ、暗黒の眼窩は。
『悪魔』を見つめたまま、凍りついていました。
アプレアギーレンの、白い貌。
そこに、亀裂が走りました。
横一文字に。
そして、裂ける。
ばっくりと。
表皮をめくりあげながら。
美しい、真っ白な歯が。一斉に姿を現しました。
そして、ピンク色の歯茎。
綺麗に並んだ歯を割って、何かが吐き出されます。
歯茎と同じ色。長い、とても長いもの。
口の周りをぞろりと這って。
大量の唾液を零したとき、それが舌だとわかりました。
それから、あの音。

るるるるるるるるるるるるるる!!

天に向けて。
咆哮。
興奮の。歓喜の。
とても、綺麗な…透き通った音で。
巨大な掌が、呆気なく開きました。
開放されて。落下する『彼女』の肢体。
地面に達する前に。
動く。
アプレアギーレンの左手。
すくい上げる動き。

ざくり。

食い込み。
刺さり。
貫く。
尖った爪先が。
『彼女』の腹部に吸い込まれていました。

「あ」
驚いたような、『彼女』の声。
「あ。あ。あ」
呼吸。漏れる。困惑。
苦痛の声。

「あぁ。  あ。
  あ。あ。  あ。

    あぁ!  あ!   あ!あ!

      
あ!あ!あ!あ!あ!あ!

   あぁあああああああああああああ!!!




BGM:追跡するもの
Innerstudio


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