第56話:攻勢阻止
no image

略奪は訪れませんでした。
身をすくめた私。
その周りで、世にも綺麗な音が響きました。
ガラスを砕いたような。美しい破砕音。
それが辺り一面に。数十、数百と鳴り響いて。
舞い降りてくる。
きらきらと緑色に光る、薄い箔のようなもの。
白く霞んでいた私の視界。それが、再び元の色を取り戻しました。
「下郎!」
ガルガンチュアの鋭い叫び。
その声で、何かが略奪を阻んだのだとわかりました。
それは…
「退がれ。時間は稼ぐ」
耳元で、暗い声。
誰かが私の隣をすり抜けました。
揺れる。頼りない足取り。
案山子のような痩躯…見覚えのある背中。
のんびりと歩み寄る。
倒れたたままの、マレリィの元へ。
無造作に下げられた、細い腕。
その袖先で、銀色の光が煌きました。
透明な破砕音。
割れ砕け、八方に吹き飛ばされる、緑の箔。
それは、マレリィを捉えていた緑光。
自由を取り戻した彼女の横を。もう、関心がなくなってしまったように。
彼は通り過ぎていました。
歩みの先に。
ガルガンチュアの姿。
「…いつも、そうだ」
暗く沈んだ呟きが。寂しげな背中から漏れました。
「…いつだって…俺達は何も生み出すことができずに…
 灰色の絶望が心を食んでゆく…。
 自分の生まれも知らないまま・・・。
 無駄に、無駄に…孤独な死に向けて…時を重ねてゆく…」
ぽつり、ぽつりと。切れ切れに零れる言葉。
それは悲愴な嘆き。絶望的な。
彼の中に潜む暗黒の病が。声となって流れ出す。
「クラン…小さく、とても儚げで…俺と同じ、心病む者。
 絶望的な流浪の果てに此処へ辿り着いた…俺達の大切な仲間だ。
 …だから」
黒い帽子が。彼の髪と共に少し揺れました。
「この俺が。指一本たりとも触れさせはしない」
乾いた風のような声で。

モレクラールは言いました。


BGM:Celtic Adventure
Innerstudio


BACK NEXT
目次