第53話:異変
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「クラン」
闇色の声音。絡みつくような。泥土の声。
じわり…。
黒い染みが。空間を容赦なく犯して。
近づいてきます。
目的は私。
「クラン」
もう一度。呼びかけて。
私に向けて。
近づいてくる…。

私の目は、無感動にそれを見つめていました。
恐怖?
今の私には無縁の言葉です。
そんなものは。
あの崖下に。
あの岩場に。
置き忘れてきてしまった。
…死ぬことのない私。
恐れるわけがありません。
むしろ…
私は…
「哀れな娘だ」
温度のない、ガルガンチュアの言葉。
私に向けて。
「…未だ、己の変化に気づかないのか」
変化…変化はしています。
クランという存在は砕け割れ、その欠片が今も旅を続けている…。
「変化は、あの時から始まっていた」
…あの時…とは、いつのことでしょう。
「性格や言葉遣いに、変化はなかったのか?
 急激に多彩な感性が生まれはしなかったか?
 難解な語句の表現が、いとも容易くできるようになってはいないか?
 今、私を視認して。言語野が落ち着きを感じているのではないか?
奇妙な問いかけ。
それと共に、黒と緑が私の視界を埋めてゆく…。
記憶の逆流があった筈だ。お前の知らない過去が見えただろう?」
…見ました。蒼い雲と。黄色い大地。
あのキオクは…私のものではありません。
ワタシ以外の…
「自分の名を言ってみろ。真なる名を」
私は…ク…………
違う。クランは、あんな景色は知らない。
あんな場所には行ったことがない…。
じゃあ、わたしは誰ですか?
わ、わたしは…わ、わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ………

ぐにゃり、と。捻じ曲ガル世界。
溶け崩れるソラとクモ。消えてゆくヒトビト。砕ける舞台。
ナクナル…。
黒イ闇。緑ノ光。それダけが、残って。
いえ、私が。そこに取り残されテいました。
「お前だけではない」
ガルガンチュアの、声。
その言葉で。
私が誰なのか。
ワカリ
マシ
    タ。


BGM:追跡するもの
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