第52話:傀儡
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べき。
ばきり。

耳を覆いたくなる破壊音。
押さえつける力。その圧力に耐えかねて。
壊死してゆく、両腕。
「陳腐だな」
冷酷な不協和音が、破壊音に応えました。
「悲壮な決意とも見えるが、
 それも『指向性』の一つに過ぎん。
 即製品のお前には理解できまいが」
その言葉が終わると同時に。
響き渡る、一際大きい音。
パンタグリュエルの両腕が。
完全に崩壊したことを告げる、決定的な音。
痛いくらいに張り詰めていた空気。
それが、溶ける。
ふわりとパンタグリュエルの髪が広がりました。
縛を解かれ、大地に降り立つ。
細い両脚。
それが、暗黒に染まるのが見えました。
空気を殺しながら、黒い爪先が走る。
致死の。
反逆の一撃。
誰もがガルガンチュアの死を予測した、その瞬間。
「お前の姿は不快そのものだ」
凛と、響き渡る闇色の声。
パンタグリュエルの喉元から、腹部までの範囲で。
緑色の光が爆発しました。
吹き飛ぶ肢体。
石畳を砕き、転がる。
黒い胸元に突き立っている、無数の緑光。
細長い、棒状の。まるで杭のような。
「その姿を与えられたのが、お前の不幸。
 生かして帰すつもりは毛頭ない。
 苦痛が長引くと理解し、その上で立つか?」
放たれたガルガンチュアの声。それは、とても静かなものでした。
土埃と礫を蹴リ飛ばして、細い体が起き上がりました。
凄絶な、その姿。
砕け折れ、だらりと下がった両腕。体は無数の光に貫かれています。
それでも、彼女は前を見ていました。
自分の邪魔をする、その存在を。
束の間、静寂が辺りを支配しました。
決着を待ち、私達は息を止めます。
その時でした。
ガルガンチュアが、その言葉を口にしたのは。
お前はどこから来た?
暗黒の問い。恐ろしいほど透き通った声。
それを受ける。
鋼のような、パンタグリュエルの表情。
そこに一瞬の。
困惑。

ざこん。

聴いたことのない音が。
天に向けて放出されました。
大地から生え出た、槍状のもの。
緑色に輝く、光の集積体。
空と大地を繋いで。
その間に、パンタグリュエルの体がありました。
股間カから頭頂まで。
一直線に貫いた凶器。
「これが模造品の限界。
 指向性だけが動力の虚ろな人形。
 『第零格』よ。この傀儡が、お前の限界そのものだ」
冷徹な、闇色の声。
その声は、もう届いていないのでしょう。
薄く曇った瞳は、既に光を失って。
消えていく、暗黒の命。
「悲しい生だったな。…さらばだ」
言い捨てる、闇の王。
声とともに、その体から緑の光が吐き出されました。
それは細い杭となって、宙を駆けて。
びくり、と痙攣するパンタグリュエル。
眉間に突き立った新たな緑光。
死の瞬間。
彼女の唇が、最初で最後の言葉を放ちました。
「私は誰ですか?」

そして砕ける彼女の体。
微細な、黒い粒子に変わって。
彼女が手にかけた全ての人と同じように。

風に溶けました。


BGM:OVERMIND
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