第51話:排斥
no image

湧き起こる、畏怖のざわめき。
「ガルガンチュア…」
「物語の…」
「あれが『闇の王』か…」
地に伏したまま、恐怖に目を見開いて。
人々はそれを見つめました。
伝説の存在。
闇の生命。
ガルガンチュアを。
「この日を待ち侘びていた。
 …あの場所を離れ。再び地上に立つ、この時を。」
歓喜にうねる、緑の触手。
感慨に耽る、闇色の声。
「反転を必要とする私の力、その縛鎖を断ち切る時も近い。
 だが、その前に。
 私の妨げとなる、確定ならざる因子ども。
 今、ここで。お前達には舞台を降りてもらうとしよう」
誰に向けられているともしれない、不協和音。
…一体、なんの話をしているのでしょうか?

ずわり。

闇の王が、前へ進み出ました。
わっと、後退する人々。
恐怖に押されて。
でも、ガルガンチュアが見テいるものは。別のものでした。
黒の化身。殺戮の双腕。
パンタグリュエル。
一言も発することなく。仁王立ちのまま、彼女は主を見つめていました。
闇の王が言葉を放ちます。
「悪趣味なものを見せてくれる…。私を挑発しているのか?」
沈黙を守る、パンタグリュエル。
その体が、前触れなしに動きました。
主に向けて吹き飛んでいきます。
跳躍ではありません。
まるで、突風に押されたかのように。
地面と平行に。
まっすぐ飛んで激突する、その瞬間。
黒色の右腕で、主の体を薙ぐ。
…薙ごうとしたのでしょう。
でも、振りかぶった手は。
そのままの形で、制止していました。
いえ、腕だけではなく。彼女の全身が空中に縫いとめられていました。
まるで手品のよう。
ガルガンチュアの声が響きました。
「その姿と重力制御式。
 そして先程の崩壊式。
 『傷痕』で見た重力戦から複製したな。
 …できるのはそれだけか?」
動かない、パンタグリュエルの表情。
ぴくり、と左肩が震えました。
そちらの腕も、同様に自由を奪われているのでしょう。
足の両爪先は、大地から50センチは離れています。
不可視の巨大な手に両腕をつかまれて、吊り上げられているような。
あやかしの光景。
ぎり…。

ぎりり。

何か。ひどく嫌な音が、私達の耳を打ちました。
押さえつける力。振りほどく力。
その境目で生じる音。
肉体の限界を考慮せず、強引に右手を振りぬこうと。
遂行しようと。
パンタグリュエルの瞳に灯る、ギラギラとした光。
それは、絶対意思。
両の腕が折れ砕けようとも、
彼女は自分の成すべきことを成す。
「この場の全員を殺す」という決定。
それを妨げるものを。

彼女は許さない。


BGM:死線
Innerstudio



BACK NEXT
目次