第50話:黒の凶器
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それは、ほんとうに。無造作な動きでした。
一番近くに立っていた、男の人。ソノ脇腹を。
パンタグリュエルの右腕が撫でました。
ごそり、と削れる体。
少し遅れて。人型の黒灰に変わり、その人もまた、グリーン夫妻のように散り散りに砕けました。
三人目の犠牲者です。
その灰が空に溶けるより早く、
彼女の左腕は、別の誰かを灰に変えていました。
これで、四人。
潮風を切り裂く。誰かの悲鳴。
それがスイッチ。
加速する彼女の両腕。
次々に消えていく命。
「そいつを止めろ!」
怒号がそこら中から湧きました。
恐怖ヲ打ち消すために。
男の人が三人。パンタグリュエル目掛けて、一斉につかみかかりました。
その動きを凌駕する、圧倒的スピードで。
横薙ぎに走る、暗黒の右腕。
三人の首から上が、同時になくなりました。
遅れて霧に変わる、三つの胴部。
黒い双腕から、同じ色の飛沫が。残光のように散りました。
その腕は、意思。
殲滅の意思。
『この場にいる全員を殺す』
その絶対的決定が、形となったもの。
人々の畏れが爆発しました。
身をよじり、泣き叫びながら押し合い、広場の外へ逃れようとする人の群れ。
彼らの無防備なセナカを。死の腕が手当たり次第に薙いでゆきます。
容赦のない殺戮。
それから。
パンタグリュエルの体が、地上から消えました。
空を駆ける長い髪。
跳躍高度は、ざっと2メートル。
広場の中央。人の密集地帯へ向け、10メートル近い距離を移動して。
着地と同時に、黒色の霧が爆発しました。
霧は広域に展開して、すぐには晴れませんでした。
その理由を。全ての人がリカイしていました。
殺戮のスピードが、霧散のそれを上回っているのだと。
霧の中で、何が起きているのか。誰の目にも明白で。

その時。
それは起こりました。
どおん、という巨大な音。足の裏から、頭頂まで突き抜ける。
立っていられないほどの地響き。凄まじい揺れ。
地に打ち伏せられる、私達。
それは、ワズか数秒のこと。
揺れが収まり、立ち上がろうとした人々の眼前で。
やぐらが、めきめきと音を立てて。
崩れ落ちました。
そして、私達は知りました。
祭りの終焉。その時が来タのだということを。

「そうではない」
誰かの声が、朗々と響き渡りました。
その場にいる、全員の耳孔に。
「祭りはこれからだ」
この声…。
『語る街』ではありません。
まがまがしい、人外の不協和音。
呼応するように。
黒い霧が、さっと晴れました。
薄れ、消える黒霧を突き抜けて、
パンタグリュエルが姿を現しました。
凄まじい勢いで空を流れて。
屋台に叩キつけられる、彼女の体。
支柱をばきばきとへし折って、突き刺さるような形で停止する。
即座に跳ね起きて、彼女は崩れたやぐらの方へ視線を向けました。

…ぞくり。
強烈な冷気。氷柱ヲ押し当てられたような。

…来る。

やぐらの残骸。そのすぐ手前に。
異常が生まれました。
変わる、大地の色。
闇色に。
…ずるり。
這い出る。立体感のない、黒い染み。
空に向けて、ぐいぐいと伸び上がる。
それから、強い光が私達の目を侵しました。
見忘れるはずモない、緑色の光。
それヲ、闇いロのからダにまトって。
フかク…おもイこエがヒビひビキ…ま…ス。

「私の前で立つことを許されると思うな。
 下等品には、平伏こそが相応しい。
 そして、この名を心に刻め。
 ガルガンチュアの名を」

ガ…
ル…ガンチュ…ア…

ガルガンチュア…






BGM:追跡するもの
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