第49話:迫り来るもの
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初メの異常は、音。
打ち叩かれる太鼓のリズム。
吹き放たれる笛の音。
風に溶ける、ギターの演奏。
全ての音色が。
不意に、低く。コもって。
無造作に並べられただけの。つまらない、音の繋がりに変わる。
楽器の主達が、顔を見合わせて。
己が分身の、唐突な乖離に。
狼狽し、困惑する。

次ノ異常は、色。
見えている世界は、何も変わっていないのに。
太陽は、あんなにも輝いているのに。
草木の緑は、その瑞々しさを失って。
空の青は、その清々しさを失って。
建物や、人々の服までが。
みるみるうちに、ウツロな色に変じて。
空虚に褪せてゆく。

更ナル異常は、熱。
広場に満ち溢れていた、興奮の熱。
歓喜と高揚の。
それが、急速に冷める。
あれほどの高ぶりが嘘のように。
沈黙に侵されてゆく、歓びの声。
笑顔は、不安げな顔に変わって。
続いて、足元から。
…ぞっとする寒気。
むしろ、冷気に近いもの。

私は。

私は、この寒さを知っています。
これは。冷気じゃない。
熱が。ウバワレテ。

…そして、『あの人』が来る。

その時、私がそれに気がついたのは。
偶然だったのでしょうか。
広場の隅。
舞台を取り巻く人々の環。その、一番外側に。
二人のヒト。
あれは確か、グリーン夫妻。
穏やかな表情のグリーンさん。
隣には、優しく微笑む夫人の姿。
不思議なことに。
遠い隔たりを越えて。
私は二人の表情や、
髪の一本一本まで、克明に見て取ることができました。
そして、二本の柱も。
それは陽光を吸い込む、漆黒の柱。
反射や光沢という言葉を知らないように。
ただ、ひたすらに。黒色であることを望むもの。
柱は。夫妻の胸の辺りから、一本づつ生えていました。
二人はまだ、微笑んでいます。
あまりにも突然すぎる、自分達の死を理解できずに。
柱の先端で、何かがひらひらと動きました。
細く、黒い。棒のようなもの。
私がその正体を理解すると同時に、棒の動きは止まりました。

指。

黒い指です。
柱は腕。黒い腕。
指先が、ぴしりと揃って。
二本の腕は、同時に引き抜かれました。
夫妻の背中側へ。
その瞬間でした。
絶命していた二人の体が、真っ黒な塊に変わりました。
塊は細かく千切れ、微細な粉に。
そして、瞬きの間に。大気に溶けました。
消失した夫妻。
その向こうに。
黒衣の人影。
両腕に、死の余韻を残して。
妖しく光る、ガラス玉のような瞳。
それが、遠くの私を見つめました。

彼女ノ名ハ。

パンタグリュエル。


BGM:追跡するもの
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