第48話:其の心に映る




瞬間、私の前から舞台と観客が消え去りました。
刹那ノ幻視。
私が見ているモノ。
蒼い雲。黄色い大地。風は、どこまでもツメタイ。
遠く、広い世界が。この先に広がっている。
少シ離れたところに、見知らぬ女性の姿。
顔は…よく見えません。
でも、私はこの光景を知っています。
確かに。この場所に立っていた。
でも、それがいつのことだったのか。
どうしても思イ出せません。


元の景色が戻ってきました。
唄い終えた私は、舞台の上にいて。観客達が私ヲ見つめている。
奇妙な静寂。
拍手も歓声も。ひそりとも生じない。
耳が変になったのかと思って。でも。
…気がツきました。
舞台の前だけじゃありません。
やぐらの上にいる人も。屋台の店先にいる人も。
踊っていた人も。話していた人も。
広場の全ての人間が。
この街の全ての人間が。
私を見つめています。
…私、何か。とんでもないことを。
してしまったのでしょうか?
その時、何かが聴こえました。
人々の間から、押し殺したコエ。
これは、嗚咽。
消え入りそうな啜り泣き。
「クラン。蜜柑色の髪を持つ、愛しい娘よ」
遠くで、『語る街』の声。
「儂らの喜びがわからんだろうね。
 この狂おしい昂ぶりを。理解できんだろうね。
 だが、お前さんのしたことは。
 儂らにとって、なによりも温かい。
 お前さんが示したものは。黄金色に輝く、希望の道だ。
 前に進めぬまま、あがき苦しんで。
 短い生を終えてきた、この街の悲しき吾子ら。
 皆がこの町にいる居る理由。
 それは、お前さんのようになること」
音が戻りました。
爆発する、人々の歓声。
喜び、抱き合う男女。
泣き叫ぶ老人。
うずくまってしまう若者。
楽人達は、一心不乱に楽器をかき鳴らして。
喜びの祭りが始まります。
その只中で、私とマレリィだけが。
ぽかんと口を開けていました。
完全に、取り残されて。
そして。

異常は。直後にやって来まシた。





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