第46話:やみのおう
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昔々のお話です。
あるところに、とても美しい国がありました。
そこでは、正しい心の人々が、なかよくおだやかに暮らしていました。
そして、いつも楽しいことばかり起こるので、人々はいつも笑顔でした。
でも、よくないことは起こるもの。
東の空からまっくろな雲が現れたのです。
それは、人の形をした雲でした。
人々が「なんだろう」と見ていると。
雲はみるみるうちに、空いっぱいに広がりました。
あっという間に国中がまっくらになって、人々はとても困ってしまいました。
これじゃあ毎日、夜ばっかりです。
すると、空から「よこせ」という声が聞こえました。
人々は思いました。
この雲は、きっとお腹が空いているんだ。
そこで、人々はたくさんのご馳走を用意しました。
ご馳走は、すうっと雲に吸い込まれて消えてしまいました。
「よこせ」と、雲がまた言いました。
そこで、人々はたくさんのお金を用意しました。
お金は、すうっと雲に吸い込まれて消えてしまいました。
「よこせ」と、雲がまた言いました。
人々は本当に困ってしまいました。
雲が何を欲しがっているのか、誰にもわからなかったのです。
 
そのとき、一人の乞食が叫びました。
「お前さんは誰だ? おらにはあんたにあげれるものはねぇ。
 だが、お前さんの名前を聞くことはできる」
雲がうなり声を上げて、「やみのおう」と答えました。
「では、お前さんは何が欲しいんだ?」
乞食はもう一度、声を張り上げました。
「なにもかも」
雲がまた、うなりました。
「お前さんがそうしてぇなら、すればいい。
 でも、お前さんは王様にはなれねぇ。
 おら達はあんたをこう呼ぶだろうよ。
 『たいそう大きな乞食さん』ってな」
乞食がそう言った途端。
雲が、ふわあっと小さくなりました。
そして、大きな地割れに吸い込まれて消えてしまいました。
それ以来、やみのおうを見た人はいません。
でも、いなくなったわけではありません。
地面の下に住んでいるのです。
深くて暗い地面の下から、手だけを地面の上に出しているのです。
ものを欲しがってばかりいる子供は、やみのおうにさらわれてしまいます。

気をつけて。気をつけて。


BGM:水と風の交わる処
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