第42話:矛盾の遺産
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苦痛と歓喜の悲鳴を上げて。
扉が開きます。
風が動いて。
なだれ込む外気。
それに続くのは、十の歓声。
十人娘。
彼女達の姿も扉の向こうへ。
それから。
私は扉をくぐりました。
「埃に気をつけなさい。
 彼が出かけている間、ここを掃除するものはいないのだから」
『語る街』が、耳の後ろで囁きました。
古い家屋。稀に帰宅する主のために。
この家は、在り続けてきたのでしょう。
でも。二度と、彼が戻ることはない。
ここは、カイルの家。


紙。紙。紙…。
書斎で私を迎えたもの。
大量の紙片。
大きなもの。小さなもの。細長いもの。四角いもの。
あるものは床に散乱して。あるものは壁にピンで留められて。
いえ、壁だけじゃありません。
扉に。棚に。机に。椅子に。絨毯や本にまで。
刺せる場所になら、どこにでも。
紙片とピンは、深い森となって。部屋を埋めています。
目がくらくらしました。
全ての紙片に、びっしりと書き込まれた文字。
その圧倒的数量。何万字…何千万字…?
そして、私は足を踏み入れました。
前後の繋がりを持たない。
時間的混沌。
バラバラの。
無秩序な。
文字の魔境へ。


BGM:MOON 〜深淵の秘密〜
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