第41話:浜辺にて
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潮騒が、耳腔をくすぐる。
風に混じる、とても微細な塩性粒子。
足元で砕ける、白い砂。
今日は浜辺でアプレアギーレンを見カけました。
「単一の種。そんなものが有り得ると思うか?」
彼は、顔をしかめて言いました。
アプレアギーレンは他の人と違います。
白い仮面のような顔には両目がなく、
小さな鼻の穴と、薄い亀裂のような唇だけがありました。
彼の体は私の倍以上の大きさがあって、砂浜に大きな影を落としています。
しなやかな肉体は遠目には黒々として見えましたが、すぐ側で見ると、
深い藍色に近いものであることガわかりまりました。
指先を押し当てると、冷たく、硬く、滑らかな感触がします。
「血と恐怖の日々を捨て、私は旅に出た。
 水細工の森。灼熱の地底。南海の大穴。輝くオーロラの下。
 果てしない探索。
 …だが、どこにも仲間はいなかった。
 では、私は何から生まれたというのか。
 そして何に己を伝えればよいのだ?」
彼の言っていることは、よくわかりません。
難しイです。
私はただ、彼の肌触りが心地よくて。
その表面に指を這わせていました。
「あまり触れぬことだ。私の体は。今も殺戮を記憶している」
彼は硬イ声で私を咎めました。

くすくす、と。
含み笑いが。すぐ側で湧きました。
いつの間にか、そこに小さな女の子が。
ぴちっ、と音を立てて。
少女の掌がアプレアギーレンの肌を叩きました。
あっという間に背を向けて。
声を立テテはしゃぎながら、彼女は岩場に逃げ込んでいきます。
私達が注視する中。隠れた大岩から、再び少女のカオが姿を見せました。
好奇心に満ちた、大きな瞳。
可愛らしい笑顔。
それが、2つに増えました。
まったく同じ顔が、別の岩陰から。
そして次々に。
増える…現れる。
少女達の数は10人に。
「十人娘」。彼女達はそう呼ばれています。
一人一人に名前はありません。
時折、一人多いときがあるそうです。
彼女達は11人目の仲間を「ヒミツっ子」と呼んでいます。
お互いに見分けがついていないので、誰が11人目なのかも見分けられないそうです。
「ねーねー」
「ねー」
「遊んでよー」
少女達は交互に口を開きます。
一度に喋ってしまうことは、あまりないみたいです。
「今、『隠れっこ』してたんだよ」
「別に『鬼ごっこ』でもいいんだけどー」
「私達、『隠れっこ』の方が好きだなー」
「ねー。一緒に遊んでよー」
ひょこり、ひょこりと。
岩の陰から顔ヲ出しては引っ込めて。
十人娘は黒い巨人に呼びかけました。
アプレアギーレンは少し沈黙して。
「人数を欠かしたくないのなら。
 私の手の届く場所には寄らぬことだ」
冷たく言って。彼は背ヲ向けました。
去ってゆく彼の後を。
「えー」
「えー」
「つまんなーい」
「じゃあ、離れて遊ぼうよー」
11個の小さな背中が追いかけてユきました。


BGM:猫のお昼ね
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