第37話:葬失(そうしつ)
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話し声が聴こえます。
ずっと遠く。ずうっと上のほうデ。
あの声は…『彼女』。
そして、『カイル』という名の人。
「この夜も君の仕業なのかい?」
「…クランの可哀想な姿、晒しものにしたくないもの」
「でも、彼女は死ななかった。いや、未来永劫、死ぬことはない」
「ムカツクわね。何、知ったような顔してるわけ?あなた誰よ?」
「キミはボクを知らないかもしれないが。ボクはキミの背中を知っている」
「その顔は…確かに覚えがあるけど。
 でもそんな筈ない。
 その顔の持ち主はもういないんだもの」
「ボクは自分の正体についてひとつの仮説を持っている。
 それは、ボクが『無意識から生まれたモノ』だということだ」
「意味がわかんない。はっきり言っとくけどね。
 その顔は登録されていないし、私はあなたなんか知らない。
 つまり、あなたの存在自体があり得ない」
「だから、無意識だと言ったんだよ。キミが背後に残した影、それがボクだ。
 …ボクが始めに見たものは。去ってゆく、キミの背中。
 その時から、ボクの刻は止まっていた。
 一歩も前に進むことなく。ただ、茫漠とした時間を生きてきた。
 何故、ボクは前に進めないのか?
 原因は…おそらくキミの矛盾にあるんだろう」
「そんなのあなたに限ったことじゃないでしょ。バカじゃないの?」
「ボクらは仲間を求めている。だからこそ、クランから離れるわけにはいかなかった。
 あの丘でクランの死を見届け、マレリィとの生活も見守った。
 ニ人が闇の王に拿捕された時は、正直途方に暮れたよ。
 でも、キミが割り込んでくれたお陰で、クラン達を再び確認することも出来た。
 闇の王の生死は不明だが、同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
 だから、ボクはクランと再び接触することにしたんだ。
 長い追跡劇だったよ。
 …でも、収穫はあった。
 同じ追跡者である、キミを発見できたことだ」
「…発見したからどうなの?」
「キミの存在を確認することが、ボクらの悲願だった。
 その意味では、ボクの役目も終わったと言っていい。
 …最後の仕事はやり遂げれそうにないけれど」
「どうして『ボクら』と言うの?他にも仲間が?」
「…クラン、そしてマレリィ。聴こえているかい」
「クランに呼びかけないで。
 …あなたに私のことを教えたのは誰? 答えなさい」
「キミ達を騙していたことを謝る。
 この道は、マレリィの家へは続かない」
「やめないと殺すわよ」
「このまま海沿いに進むと、『語る街』がキミ達を待っている。
 生き延びることができたら、そこへ向かってほしい。
 これはボクの遺言だ。…キミ達との旅は楽しかっ」


不意に。
声が途絶えて。
「…クラン。私、出直してくるね」
去っていく、『彼女』のコエ。


マレリィに腕を引かれテ、私は岬の上に戻リました。
…誰もいませんデした。
『彼女』も。カイルも。パンタグリュエルの遺体さえも。
でも、夢ではありません。
足元に。月光を浴びて、銀色に光るもの。
それは、カイルの眼鏡。
透かして見ると。思った通り、度は入っていませんでした。
「あはははははははははは」
また、誰かが笑っています。
私達、何かタイセツなものを失ナッタのでしょうか?


BGM:ain_soph
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