第35話:白い月〜永遠の旅路〜
no image

白い。
とても白い月。
私を見下ろして。
浮かんでいます。
  知りませんでした。
  月は。こんなにも綺麗です…。
少し前に。
砕けるような衝撃と、
耐えがたい痛みがありました。
でも、今は。何もありません。
   横たわるカラダ。
   規則正しい、鼓動音。
   いつも通りの私。
裂けちぎれた筈の服も、それを忘れたかのように。
全てが、元の姿に。

ありえない現実。

私…生きています。

ガルガンチュアの緑光に腹部を貫かれた『彼女』。
焼き、削られた『彼女』。
生え変わった、私の右腕。
そして。
ああ…。
そうだ…。
何故、気が付かなかったんだろう。
あのガイトウヅルの丘で。
私、死んでいました。
飢えと寒さが、私の命を奪って。
でも、死ななかった。
その理由も。今、わかりました。

それは、私が「死なない存在」だから。
永遠に。この世界に在り続けるものだから。

瞬間。
駆け巡る。
幾千、幾万の光景。
  朽ちてゆく木々。
  崩れ去る建物。
  次々にその身を横たえる、数知れぬ獣達。
  老衰でこの世を去る、少女の顔。
  彼女の名はマレリィ。
  それから、未だ見ぬ数多の人々。
  その思い出。
  終わることなく繰り返される、果てしない葬儀。
  死んでゆく生命達。
  滅びてゆく国。
  土に還る。全ての文明。
  荒野にうち捨てられた、累々たる屍の群れ。
  地平線の果てまで続く、無限の墓標達。
その、全ての場所に。
今のままの。
私の姿。

…私の旅は。
未来永劫。
終わり無く続く。
果てしない孤独の旅。

「ふふっ」
こぼれる。誰かの笑声。
「あはは」
やがて、それは止まらない哄笑へと。
「あはははははははははははははははは」
嫌な声。ひどく、耳障りな。割れた音。
笑っているのは、私。
不思議な気分です。
今まで大事だと思っていたもの。
素晴らしいと感じていたもの。
それが、ひどく薄っぺらなものに。
変わっていくような。

何もいらない。
全ての繋がり。関係は。
私にとっては無限の苦しみ。
だから、もう何もいらない。
この世界は、私を切り離せばいい。

突然、理解できました。
『彼女』の言葉の意味。

クラン、死にたくないの?

「あはははははははははははははははは」
耳障りです。この声。
頭を打ったせいでしょうか。
私…壊レてしまいました。




BACK NEXT
目次