第33話:天落(てんらく)
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「『派生品』の分際で、私の邪魔をするからよ」
言い捨てて。『彼女』はパンタグリュエルの躯に背を向けました。
次は私の番。
絡み合う。二対の視線。
『彼女』と私。殺すものと。殺されるもの。
…でも、何故?
「どうして、あなたは私を殺すの?」
疑問は、私の口から滑り出ていました。
「理由も知らずに死ぬなんて。そんなのいや…」
それを聞いて。
『彼女』の表情が大きく変化しました。
目と口が大きく開いて。驚き、呆気に取られたような、その顔。
「クラン、死にたくないの?」
返された疑問。『彼女』は何を言っているのでしょう?
まるで死を望むことが当然だというような。
そんな言い方。
私、私は…。
私は一体?
「じゃあ、まだ気が付いてなかったんだ」
 薄く哄う、『彼女』。
  おそらく『彼女』は知っている。
   失われた、私の過去を。
    『彼女』の中に、私の記憶がある。
     そこに、全ての答えがある。
「教えてあげる」
その言葉。『彼女』の言葉。
背すじが波打つような悪寒を伴って。
私の中に滑り込んでくる。

とん。

軽く。
本当に軽く。私の肩を押した、彼女の指。
私には、抗うための力がありません。
くらり…。
眩暈に似た、これは。失われる平衡感覚。
彼女の顔が、視界の下へ消えていく。
そして飛び込んでくる。
黒く輝く。夜空。
倒れまいと。無意識のうちに。左足が後ろへ伸びる。
足場を求めて。
でも、そこには。
何もありませんでした。
「クラン!!」
重なる、二つの声。
押しのけられる、『彼女』

 夜空。
    差し出される、右手。
              カイル。
 星。
    差し出される、左手。
              マレリィ。
 月が。白く。

私の手をつかまえようと。
二人の手が。
指先が、指先を求めて。
誰かの指が、私の指先に触れました。
 それはカイル?
  それともマレリィ?
その感触が、とても嬉しかった。
でも。


届きませんでした。




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