第32話:夜葬曲(ノクターン)
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異変は。
次の瞬間に起こりました。
燃えさかる黄金の華。『彼女』の体が。
ゆらりと揺らめいて。
消えました。
同時に、視界が闇に。
開始される、虫達の協奏曲。
風に混じる、湿った冷気。
闇の来訪。
空には白い月。
瞬きをする間に。
辺りは夜に変わっていました。
「うまくできたかな…
 見かけは似せたつもりだけど。
 最近はあまり作らないから、自信ないなぁ…」
のんびりとした独り言。
『彼女』の声は。
目の前で放たれました。
私を見つめる暗い双眸。
焼かれ、削られたことなど嘘のように。
完全なその姿で。
『彼女』は、パンタグリュエルと背中合わせに。
一瞬の間。それから。
パンタグリュエルは振り向こうとしたのだと思います。
でも、できませんでした。
金色の光が、胸部を斜めに走ったから。

がすん。

あの音がして。
焼かれ、削られました。
大きな破壊孔。
パンタグリュエルの体に。
バランスを失い、揺れる上体。
「うん、上出来」
満足気に哄う『彼女』。無垢な、幼い笑み。
殺意など微塵も見せず。
「はいはい、邪魔邪魔」
言いながら振り向いて。『彼女』は、そこにある体を押しました。
くるりと反転して。人形のように傾く、パンタグリュエル。
その目は、大きく見開かれていました。
倒れる瞬間。胸から上が。彼女の胴部に別れを告げました。
どさり、というイヤな音。
奇妙な静寂。
細い、温度のない声。
「私、やられましたか…?」
そう言ったのが、最期。
パンタグリュエルは。
もう、ぴくりとも動きませんでした。
冷たい二つの躯となって。横たわる体。
曇った硝子玉が。いつまでも、夜空を映していました。


BGM:ain_soph
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