第30話:背後の希望
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嬉しそうな、『彼女』の顔。
私を殺せる。その喜びに、こんなにも輝いて。
「待たせてごめんね」
そう言って、『彼女』は進み出ました。
「今、逝かせてあげるからね」
近づいてきます。私と同じ顔が。狂喜する瞳が。
本能的な畏れに。後退する、私の体。
踵から、大地の感触が消えました。
見なくてもわかります。
背後は岬の最先端。
直角に削られた、死の断崖。
崖下の岩場も。打ち寄せ、砕ける白い波も。あまりに遠い。
だから、『彼女』はこの場所を選んだのでしょう。
私を追い詰めるために。
「その前に」
歩みを止める『彼女』。
その笑みは。依然として私を捉えています。
「そこに隠れてるんでしょ?バレてるよ」
不可解な言葉でした。
意味がつかめなくて。聞き返そうとした、その時。

がつん、と。

後頭部にすごい衝撃。
首が前方に倒れて。足の爪先が視界に飛び込んでくる。
息が止まりました。
続いて両肩にずしりとした重み。背中への圧迫感。
ばさり。
雪崩れ落ちる長い髪。私の額から。右目を覆い隠して。
指が。私の指が増える。右手に10。左手に10。
腕が4本に。足も4本に。
…違います。これは。
誰かが。通り抜けてゆく。
私の背後から。
前方へ。

…なぜ、気づかなかったんだろう。
 ずっと、ここにいた。
 私の背中に。
 この人は。
 ずっと、私達と共に旅をしてきた。

絡みつく糸を断ち払う。そんな仕草。
さっと、長い両手を振って。
彼女は私の前に立ちました。
「お護りいたします」
無機質な声。
闇の王に仕えるもの。

…彼女の名は、パンタグリュエル


BGM:Celtic Adventure
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