第27話:繋がりの街
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一番星が夜空に輝き、大通りから人の影が消える頃。
私達は公園に居ました。
街灯が投げかける、頼りない光の下。
竜の形をした滑り台に背を預けた私とマレリィ。
カイルは旅用の大きな鞄に腰を下ろしています。
彼がくれた小魚の干物とパンを私達が食べている間、
カイルは彼が旅した色々な土地の話を聞かせてくれました。
それは、相変わらず取り留めのない、嘘だらけの内容だったけれども。
私は楽しくそれを聞くことができました。
小魚は筋張っていたし、パンもすっかり固くなっていて、
噛み千切るのには苦労が必要でした。
私がパンを飲み下そうと努力していると、カイルが紅茶の入った水筒を手渡してくれました。
紅茶は温かく、食べ物を喉の奥に流し込んでくれると共に、私の体を温めてくれます。
カイルは微笑みながら私を見つめ、それからこの街のことを話し始めました。
その時、ふっとカイルの顔から笑みが消えました。
彼がこんなにも真面目な表情をするのは初めて見ます。
私達は食事の手を止めて、彼の話に耳を傾けました。

…『繋がりの街』。
それが、この街の名前。
午前0時0分。
この街の住人にとって、それはとても大事な時間なのだそうです。
時計の針が重なった、その瞬間。
人々は隣人の顔を記憶から失い、その思い出を忘れ去ります。
そして、新しい朝に感謝し、見知らぬ隣人に挨拶するのです。
「初めまして」、と。
だから、彼らはあんなにも優しくいられるのだそうです。
無限の個の中で。束の間の繋がりを求め合って。
…カイルもそうなのでしょうか?
私がそれを訊くと、
「ボクは旅人だから。誰のことも忘れたりはしない。キミ達と同じだよ」
…そう答えました。
私達3人は、同じ旅人。その事実を。
私は嬉しく思いました。


夜の静寂を破り、鐘の音が鳴り響きました。
街の中心。大鐘楼の上で。
0時0分。始まりと終わりの時。
人々は、この音をどんな想いで聴いているのでしょう。
ふと、カイルの瞳が泳いで。
ぼんやりと、私とマレリィを見つめました。
「キミたち、誰?」
その言葉に。息が止まりました。
カイルはくすりと笑って。
「嘘だよ」と言いました。
こわい嘘でした。

そして、思いました。
いつの日か。私とマレリィが離れ離れになる。
そのような時が来るなら。
私は彼女の記憶に留まることができるのでしょうか。
  彼女が私のことを忘れてしまう。
  それは、とても恐ろしく、辛く、悲しいこと。
目を向けると。
マレリィの瞳が私を見つめていました。
彼女も同じことを考えているのだとわかりました。
私達はいつまでも繋がっていられるのでしょうか。

「そろそろ行こうか」
カイルの声。
私とマレリィは困惑した顔を見合わせました。
二人ともわかっていなかったのです。
街を出ても、どっちへ向かえば家に帰れるのか。
それを聞いたカイルは、にこりと微笑みました。
「ボクが道を知ってるよ。途中まで一緒に行こう」
私達は、もう一度顔を見合わせました。
私もマレリィも、今度は笑顔でした。




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