第17話:闇の王
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闇の王が名乗った途端、私はさっきよりひどい寒気を覚えました。
辺りの空気が冷えていくのが、肌で感じられます。
ガルガンチュアがのろりと、前に進み出ました。
それと同時に、闇色の体から緑に輝く光がこぼれました。
こぼれ落ちた緑の光は、束ねられて紐状になり、ガルガンチュアの体に巻きつきました。
緑の光は続けざまに生み出され、無数の触手となって黒色の足元に纏わりついてゆきます。
それを引き摺って、黒い体がまた一歩進み出ました。
私は顔があると思われる場所に目を向けましたが、
そこにはただ、闇よりもなお暗い、黒色の滲みがあるだけでした。
その瞬間、私は滲みの奥に荒れ狂う雷雲を見たような気がしました。
私はその中を逃げ惑う、哀れな小鳥でした。
「あっ…」
思わずよろめいて、私は数歩後退しました。
私とそれほど変わらない大きさの、ガルガンチュア。
その体に、なんという存在感。

この世の全てを圧倒する強大な質量。
何者も、このひとに抗うことはできない…。
「…『第零格』よ。よく来てくれた」
ガルガンチュアが、私に向けて言いました。
空気がまた冷えた気がします。私は深呼吸してから口を開きました。
「あのう…それは一体なんですか?」
私の疑問。
ガルガンチュアのゆったりとした声がそれに答えました。
「私が探し求めていたもの。
 低次の法則を書き換え、世界を変えてゆく特異点だ」
…難しすぎです。
「特定の次幻事象を選び出すことのできる力を持つものだ。…できるのだろう?」
…困りました。
「あの…よくわかりませんけど。多分、できません。
 私ができるのは…ええっと…マレリィ特製オムライス、かな…」
私はどうにかそう言いました。
一瞬の沈黙。そして、
「『マレリィトクセイオムライス』とは、なんだ?」
ガルガンチュアの問い。
「えっとですね…食べるのは簡単なんですけど、作るのは難しいんです。
 鳥むね肉とたまねぎ、にんじんを切って…
 ふらいぱんを温めて、サラダ油をひいて、
 バターを入れて、お肉を炒めて…
 色が変わったらたまねぎ、にんじん、アスパラを炒めて…
 またバターを入れて、ライスとチーズも入れて、さっと炒めて…
 塩とコショウで味をととのえて…
 バターとお砂糖で味付けした卵を、ふんわりするくらいの硬さに焼いて…
 ライスの上に卵をのせたら出来上がり。
 あ、最後にケチャップで名前を書くんです」
あれ…?
変な沈黙が訪れました。
「…それを、どうするのだ?」
暗い、低い、考えにふけるような、声。
「食べるんです。おいしく」
私の答え。瞬間。
緑色の光が爆発して。私の視界いっぱいに。


BGM:追跡するもの
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