第16話:謁見




漆黒の世界。それは、瞼が下りているから。
目をゆっくりと開いて。

景色が変わっていました。
硬い床。敷き詰められた石。
私とマレリィは石造りの大きな廊下に立ち尽くしていました。
私が10人は並んで歩けそうな、広々とした廊下です。天井はとても高い位置にありました。
私達は、なにか大きな建造物の中にいるみたいです。
私はパンタグリュエルを探しましたが、彼女の姿はどこにも見当たりませんでした。
「クラン、あれ」
マレリィが廊下の向こうを指して小さな声で言いました。
白っぽい光が廊下の先に見えます。
私達は不安をこらえて頷き合い、光の方を目指して歩き始めました。
100メートルほど進んだところで、私達は立ち止まりました。
大きな扉が行く手を遮っています。光は僅かに開かれたその隙間から漏れているのでした。
ここで立ち止まっていても仕方がありません。
私は閂らしき部分に手をやり、力を込めて扉を押し開きました。
思ったほどの抵抗はなく、扉はあっさりと私達を迎え入れました。
そこは、大きな講義所のような場所でした。
丸い広間が部屋の中央にあって、その周りを半円形に無数の木製机が囲んでいます。
机の置かれた床は階段状になっていて、部屋の外側に向かうほど高くなっていました。
私達が入ってきた扉は机と正対する場所に位置していたので、
ここから見ると机達は、伸び上がって私達に襲い掛かろうとしている高波のように見えます。
でも私はそれを恐ろしいとは思いませんでした。
部屋に満ちる光と温度が、不思議と私を落ち着かせてくれていたためかもしれません。
部屋の様子を観察しているうちに、私はあることに気がつきました。
これだけ無数の机が並んでいるというのに、椅子はひとつも見当たらないのです。
ふと、私は「ここは講義所ではなく、何か別の目的で作られた部屋なのではないか」と思いました。
それから、私は頭上を見上げました。
そこには何もない、ひどく広い空間がありました。
そして、遠くの方に見える天井。
いえ、それを天井と呼んでいいのかはわかりません。
そこはゆらゆらと揺れる、青みがかった色の液体で満たされていました。
液体の波間には、キラキラと虹色に輝く魚の群れが見えます。
この距離で形がはっきりとわかるのだから、相当な大きさなのでしょう。
部屋に満ちた白い光は、液体の更に彼方、遥か天上から降り注いでいるのでした。
「海の底から見上げてるみたい」
マレリィがそっと呟きました。
その時、不意に部屋の温度が下がったような気がしました。
足元に忍び寄る冷気を感じ、私はぞくりと身を震わせました。
頭上の光が少し翳ったようにも思えました。
そして、私は気がつきました。
部屋の奥、最も高い場所にある机。その間に。
人型の染みのようなものが蠢いていました。
染みは真っ黒な色をしています。
それは、まったく突然に。その場所に湧き出したように思えました。
黒い染みは緩慢な動きで机の間を移動し、机達の中ほどでぴたりと静止しました。
私達に向けられる、地の底から響くような人外の声。
威圧的で誇り高い、魔性の声。
「ようこそ。閉じられた場所『傷痕』へ。
 私がガルガンチュアだ」




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