第12話:来訪




浅い眠りからの覚醒。夜も深いというのに。
きっと、「それ」の気配を感じたからでしょう。
ふと目を向けると。
「それ」は、そこにいたのです。
床に就く前、確かにドアを閉じたのに。
滲み出るように。「それ」は、ドアのところにいたのでした。
暗く冷たい気配。
濃密な闇。いえ、闇よりもなお暗い、穴のような染み。
ずるり。と、「それ」は部屋の中へ手を伸ばしました。
入ってきます。
私達が寝ているベッドに向けて、そろそろと近づいてきます。
恐ろしくなった私は傍らのマレリィを揺さぶりました。
彼女は眠そうに目蓋をこすり、ドアの方に顔を向けました。
瞬間、マレリィの体がぱっと跳ね起きました。
彼女は目を見開いて体を強張らせていました。
異様な緊張がその細い体を捉えているのがわかります。
「それ」は今、ドアの前を離れてベッドの縁に手をかけたところでした。
手はするすると伸びて、私の顔のすぐ側までやって来ました。
そして私は、それが手ではなく、真っ黒な蛇か触手のようなものであることを知りました。

「…見つけた。
 …見つけたぞ」

「それ」が、声を出しました。
意外でした。
「あなたは誰ですか」
私はそう尋ねました。
「…私は、『簒奪者』
ガルガンチュア
 真実を追うもの。
 しかし、人は私を異なる名で呼ぶ。『闇の王』と」
触手は私を観察するように、ゆらりと揺れました。
「ここに何の用なのですか」
私は唾を飲み込んで、更に尋ねました。
「…お前を探していたのだ。『第零格』よ」
「え?なんですか?私、そんな名前じゃありません」
「真なる名があるのならば、名乗るがよい」
「ええと…私…クランです」
「では、クラン。お前を私の元へと招待しよう。
 レックルランク駅を目指せ。九星方位『暗剣殺』の方角だ。
 明日の夜、0時0分に。そこの3番ホームから列車に乗れ。
 パンタグリュエルを遣しておく」
「え?あ、あの…」
「これは定められていたシナプスの機会だ。
 お前が応じてくれることを期待しているぞ」

それを最期に。
ガルガンチュアはいなくなりました。


BGM:ain_soph
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