第1話:旅の始まり

寂れた駅の待合室。冷えた私を包む、暖かな光。
窓の外を真っ白な雲が流れてゆきます。
ぎしぎしと、木の軋む音が私の耳を打ちました。
そちらに目をやって。
私は、立て付けの悪そうな、古い白木の戸が開かれたのを知りました。
そして、戸を丁寧に閉めながら入ってくる駅員の姿。
彼は私を見て、帽子に手をやりました。
つばの先をちょいと傾けてから、軽く会釈して。
「お一人ですか?」
彼はそう訊きました。
「そうみたいです」
私は、ぼうっと彼の顔を見つめて答えました。
それから、また窓の外に目を向けました。
雲の合間に、きらきらと輝くものが見えます。
「あれは何ですか?」
私の問い。
「ああ。レールですよ。ほら、ずうっと向こうまで伸びている。
 落ちた霜が、日の光を受けてあんなにも光るのです」
そう答えて、彼は黙りました。
それきり私も口を閉ざして、雲の海と、煌く光を見つめ続けました。
静かな、長い長い時間が過ぎて。
「列車が着きます」
駅員が不意にそれ告げました。
足元から旅行鞄を抱え上げ、戸口に向かう
駅員は半歩下がって、私に道を譲りました。
「さようなら」
私がそう言うと、彼はもう一度帽子に手をやって、にこりと微笑みました。



BGM:木漏れ日
sound avenue


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